オタクノ作る時間

主にノベルゲームについて取り上げてきた元学生のブログ

007シリーズ初心者が年代順に観て感想を書く! 80年代編

当ブログでは007シリーズ初心者である筆者が年代順に作品群を観て感想を書いている。この記事では80年代の作品群の感想を書くので、良かったら読んでいってほしい。それ以前の作品群の感想は過去記事を参照してくれ。

 

lemuridae.hatenablog.jp

lemuridae.hatenablog.jp

lemuridae.hatenablog.jp

lemuridae.hatenablog.jp

 

12.『007 ユア・アイズ・オンリー

1981年のシリーズ第12作。宇宙にまで進出しちゃった前作『ムーンレイカー』とは打って変わって『女王陛下の007』以来のシリアスな作品である。待ってました! 立て続けにコメディ路線の作品が続いた中の本格スパイ路線だったので、筆者は大歓喜。これまでで最もリアルな作品だったんじゃないかな。『ロシアより愛をこめて』よりも現実的だし、女と出会うととりあえずSEXしてたロジャーボンドが分別のあるキャラになってたのが印象的。非常に楽しい2時間でありました。

冒頭は過去作で死んでしまった妻の墓を見舞うボンドの姿が描かれる。ロジャー・ムーアの目の演技が素晴らしい。全てを物語っている。いつもは軽いロジャー・ムーアのボンドが神妙な顔をしていると、「あ…今回は本気なのかな?」と思わされた。これは、今回はシリアスにいきます!という監督の宣言だといえるだろう。ジェームズ・ボンドも歳を重ねた結果、貫禄が出てきた。ボンド夫人の墓標に晩年1969年と刻んであったから、ボンドも若く見ても40代のようだ。

本作はアクションシーンが本当に多い。開幕から飛び回るヘリコプターにしがみつく(スタントマン、すげー!)。そして序盤に描かれる007恒例のカーチェイスは確実に過去最高の出来。『ドクター・ノオ』の頃のものと比較すると、その進化に感動を禁じえない。『カリオストロの城』のようにコミカルかつ緊迫感のある素晴らしいカーチェイスだ。もうこの時点でこの映画はただものじゃないと思っていたのだが、その後には、これも007恒例の雪山でのスキーチェイスがある。そしてこっちも過去最高の出来だ。ほんとにこんな映像よく撮れたな…と感心しっぱなしである。怪我とかしてなきゃ良いが。

そして今回のボンドガールはジェニファー・コネリー風のクールビューティー。筆者の好みにドストライクである。黒髪ロングが良い…良い。上述したように今回のボンドは節操があるから、すぐにこのヒロインとそういう関係にならないのが好印象。バカ女っぽさが皆無である。画面に映るだけで嬉しいなあ…。

総論として、ハチャメチャな007にそろそろ飽きてきた頃に最高の一本。こういうのでいいんだよ、こういうので。私的には『私を愛したスパイ』を超えてロジャーボンド最高傑作である。

私的評価:★★★★★★★★☆☆ 8/10

 

13.『007 オクトパシー

1983年のシリーズ第13作。前作が完全にシリアスに振り切っていたのに対し、本作はギャグ路線なのかシリアス路線なのか中途半端である。いつもよりは真面目に話が進むのだが、笑うシーンも多少あるといった感じだ。この配分ならギャグを減らして前作のような作風にしてほしかった気がする。SEXしまくるボンドに戻って平常運転である。前作の風格はどこへやら…。しかし全体を通して考えるとシリーズでも上位に値する一本。筆者はなかなか好きな映画である。

お話は“レディーの卵”という秘宝の争奪戦を描いたもの。冒頭でボンドが登場すると、その老化を感じる。ロジャー・ムーアも007はこれで6作目、そら歳も取るよな~。そろそろ交代の時が来ている。この映画、007というより『インディ・ジョーンズ』っぽい。ロジャー・ムーアの老化によってか演出によってかはわからないが、逃げ回るシーンなどに一生懸命感が半端ないので、余裕を見せるボンドというよりは泥臭いインディなのだ。特にインドの雑踏でコミカルかつ必死にカーチェイスを繰り広げる場面は、かなり『レイダース』らしさがある。非常に楽しいのだが、本来のボンド像から離れている感もしなくはない。ま、楽しいから良いか。このへんはほんとにロジャー・ムーアならではである。晩飯に羊の頭を出されるシーンは『魔宮の伝説』だよね(笑)。

秘宝を賭けたカジノでのギャンブルとか、敵のボスとの晩餐会とか、静かな駆け引きも光る本作。中盤に本作の謎に包まれたヒロイン、オクトパシーが登場するまではシリーズでも満点級に楽しんでいたのだが、そのあとはちょっと退屈。ワニの変装をして潜入するボンドとか、電鋸ヨーヨーとか、シリーズ中期っぽいギャグ要素がはっちゃけきれてないバランスで登場するので余計に感じる。まあワニには笑わせてもらったけども。

それからソ連タカ派将校の陰謀とかが描かれるのだが、この辺は安っぽい。中盤までの謎めいた魅力がなくなり、お宝争奪戦が終わると退屈になってくる。ストーリーはイマイチだ。しかしこの後、列車の上で殴り合ったり(どうやって撮った!危険!)飛行機にしがみついたり、と見どころ満載のド派手なアクションが待っているので楽しめるハズだ(ちょいちょい合成丸出しのシーンがあるけど)。あと特筆すべきは、銃撃シーンにスピード感があるところ。昔の映画って一撃必殺的によく狙って銃撃するから物足りないのだけど、この映画は今風にスピーディーに撃ちまくるのが楽しい。階段の手すりにスライディングしながらアサルトライフルを連射するシーンはジョン・ウー映画っぽくてかなりカッコよかった。

総論として、ダメなところもあるがシリーズ上位の一本。なんか007というよりは『インディ・ジョーンズ』風だけどね。シリーズとしてどんどん平均点が上がってきているのが嬉しい限りである。

私的評価:★★★★★★★★☆☆ 7/10

 

番外編.『ネバーセイ・ネバーアゲイン

1983年のシリーズ番外編。この映画は権利の問題がいろいろとあって既存のシリーズとは別に製作された映画である。だからお馴染みの音楽や冒頭のガンバレル・シークエンスを見ることは出来ない。とはいえショーン・コネリーが『ダイヤモンドは永遠に』以来にジェームズ・ボンドを演じているので、ここにも感想を書こうと思う。まあ、正シリーズではないということだけ頭に入れといてくれれば良いかな。

映画が始まってもお馴染みの音楽が流れないのが寂しいが、オープニング曲がかかりながら映画が進行し、ましてやアクションシーンが見ることができるのはこの映画だけだろう。お約束破り(お約束を使えなかったからだが)はなかなか新鮮である。意外だったのは、10年ぶりにボンドを演じるショーン・コネリーをもったいぶらずにすぐに見せてしまうところ。ぱっと顔出しするので、なんだか拍子抜けする。2代目ボンド ジョージ・レーゼンビーの顔見せの時は影だけ映したりして期待を煽っていたのに…。まあ、それほどコネリーボンドがお馴染みの存在だということかもしれない。

しかしショーン・コネリーよ、あなたは老けすぎた。『ダイヤモンドは永遠に』の時ですら老化を感じていたのに、その10年後にカムバックするのは無理があった。いや、もちろんコネリーボンドが見られるのは本当に嬉しいのだ。しかし引き際というものがある。さすがに身体がなってないし、病院での取っ組み合いなんかも、もう少し若ければ見ごたえ抜群になったのに…と思わざるを得ない。

見所はシリーズ初(シリーズ作品ではないが)のバイチェイスと、こちらはお馴染みサメとの格闘シーンだ。バイクのシーンは非常にカッコよくて、とくにトラックの下を車体を傾けて通過するシーンは最高に燃える。スタントマンさん大活躍である。しかしこのシーンもジェームズ・ボンドのテーマを流すことができたらさらに燃えたと思う。そういうところは仕方ないが残念である。そしてサメとのシーンはこのシリーズお馴染みではあるが、今回は本物のサメの存在感が半端ない。というかあれ、どういう風に撮影したのだろう?人間のかなり近くまでサメが迫ってたけど、危なくないのか…? 一匹に追われてると思っていると数匹に囲まれていたとわかるシーンなんて、ほんとにゾッとした。怖い怖い…。

この映画、実はシリーズ第4作『サンダーボール作戦』のリメイクなのだが、筆者は『サンダーボール作戦』がシリーズで一番好きでは無かったりする。だからこの映画にもあまり乗れなかった。非常に残念だ…。なんで『サンダーボール作戦』なの?『ロシアより愛をこめて』とかにしてほしかったよ! それに『サンダーボール作戦』最大の見せ場の水中戦があまりなかったのはなぜ…?

結論、ショーン・コネリーのボンドが再び見られたことは嬉しかったが、なんともイマイチな一本。強いて言えば久しぶりにスペクターの面々を見られたので60年代007感を楽しむことができたかな。あとミスター・ビーンとボンドの共演が見られるのも楽しい。そこらは良かった。しかし同じ年に2本の007映画があったというのは興味深いことだ。そしてコネリーもロジャー・ムーアも老けすぎだよ。

電気ショックゲームとか何をどうハラハラすれば良かったんだ…。

私的評価:★★★★★☆☆☆☆☆ 5/10

 

14.『007 美しき獲物たち

1985年のシリーズ第14作であり、ロジャー・ムーア主演の最後の007。まずは一言、「ロジャー・ムーアさん、おつかれさま!」と言いたい。見事なボンド像を提示してくれた偉大な三代目ボンドに拍手!『死ぬのは奴らだ』から計7作、歴代で最も多くの作品でジェームズ・ボンドを演じた功績を称えよう。

そして彼の最終作である本作は…まあまあの出来であった。残念ながらシリーズの中では上位にも下位にも位置しない平凡な一本と言えるだろう。

冒頭からいつものようにスキーチェイスが始まるのだが、これはもはや様式美。この既視感だらけのシークエンスの中で新鮮だったのが、ボンドがスノボに乗る場面。何気に今までになかった。テンションが上がる。ロジャー・ムーアは高齢からボンド役を降りることを決意したそうだが、このシークエンスを見るとそれも納得。当時は58歳だったらしく、確かにもう軽く老人の域に達している。終盤のダーティハリーに出てたイーストウッドみたいだ。老化に対してなんとも言えない悲しみを覚えているとオープニングロールが始まる。音楽が流れ始めると…スゲーカッコいい! イントロのかっこよさはシリーズ随一であった。

本作はICチップ産業の独占を図る悪役をボンドが倒す話なのだが、特徴となるのは悪役を演じるのがクリストファー・ウォーケンだというところだろう。彼の存在感のおかげで、ドナルド・プレザンスクリストファー・リーに引き続き、シリーズでも記憶に残る悪役になっているのは流石である。役どころも美味しく、人工的に作られたサイコパスという設定で、非常にキャラが立っていて良い。やはりボンドと敵対する悪役はそれなりの存在感がないといけないなと思った。しかし本作において、そんな彼の存在感を超えているのがグレイス・ジョーンズさん。筆者はこの映画で初めて知ったのだが、素晴らしい女優さんである。この映画を語る際、彼女に触れない者はいないだろう。ジョーズ以来の良敵キャラじゃないかな? 

今回はフランスが舞台で、エッフェル塔の場面などが象徴するように、フランスを堪能できる。つくづく007は旅映画でもあるなと思った。上流階級が競走馬の競売のために集まる建物が美しいフランス建築で、ここにもフランスの良さがある。そこにボンドが偽名を用いて潜入するのだが、久しぶりにちゃんとスパイしてるな〜という感じだ。

総論として、そこそこな一本。しかしこれでロジャーボンドも最後だと思うと2回見てしまった。人工地震を起こそうとするあたりからが退屈かな。前作『オクトパシー』の方が好きである。

私的評価:★★★★★☆☆☆☆☆ 5/10

 

15.『007 リビング・デイライツ

1987年のシリーズ第15作。ティモシー・ダルトンジェームズ・ボンドを演じた初めての映画である。彼のボンド像は前任者で言うとショーン・コネリーに近い。ただコネリーよりも一回り若く、スマートでもあるところが独自の魅力だろう。観るまでは想像できなかった彼のボンドだが、映画の内容そのものもあいまって非常に良い。そしてこの映画自体も、今のところシリーズ最高傑作だと思う。

本作は007ならではの秘密兵器やボンドカーが大活躍する。そして素晴らしいと思ったのが、そうでありながらもバカバカしくはなっていないところ。ふつうあれだけ荒唐無稽でありえない兵器が画面に映ると話の真剣みが削がれると思うのだが、この映画は痛快なシーンがありながらもシリアスなトーンは常に保たれている。007らしさとシリアスさの両立に成功しているのである。そして『ロシアより愛をこめて』以来の現実的な東西対立が描かれているのも見どころだ。権力闘争や国境越え、アフガニスタン侵攻といった政治的な要素が上手くストーリーにリンクしている。

個人的に驚いたのが、ボンドと同じく本作ではマニーペニーを演じる女優さんが変わっていたことだ。かなり若返っている。というか一応、このシリーズは第一作『ドクターノオ』から話は繋がってるんだよね? だとしたらキャラクター達は何歳になってるんだ…?

ヘイロー降下に始まり、走行するジープにしがみつき、真夜中にスナイピングし…とテンコ盛りな本作。最も燃えたのがめちゃくちゃカッコいいボンドカーでのカーチェイスだ。『ゴールドフィンガー』を新しく作り直したようなアクションシーンで大満足である。スキーチェイスならぬチェロチェイスには大変楽しませてもらった。総じて、ダレるところもあるが最高に面白い一本。なによりボンドがカッコよく、ヒロインが可愛い。アクションも山ほどあるし見ごたえ抜群である。

私的評価:★★★★★★★★★☆ 9/10

 

1989年のシリーズ第16作。ティモシー・ダルトンジェームズ・ボンドを演じた最後の映画である。彼のボンドはカッコよくてもっと見たいと思わせるものがあるのに、たった2本しかないというのが悔やまれる。まあ、たった1本しかないジョージ・レーゼンビーよりはマシだけど。

本作は前作に引き続きシリアスな内容である。麻薬王の凶行により親友が脚を失い、そしてその花嫁が殺されたことから、ジェームズ・ボンドが私的な復讐に走る話だ。もしかしたらシリーズで最も暗い話かもしれない(『女王陛下の007』と同じくらい)。本気で怒ってるボンドを見るのはいつぶりだろう? その容赦のない復讐劇を見ていると、ボンドは敵に回してはいけない男であると確信した。殺しのライセンスを失ってなお私刑に走る姿はなかなか珍しいものがあり、『ダイヤモンドは永遠に』以来の本気のボンドである。

個人的に今回もサメが出てくるところに「やっぱり007にはサメが必要だよな~」と思った。どうして007の悪役は敵を捕らえると、銃殺せずに何らかの動物に(サメとかワニとか)食べさせようとするんだ?(笑)さっさと殺せば脱走されずにすむのにな。

見所はたくさんのアクションシーンとブチギレてるボンドだ。とくに敵の飛行機にしがみつき、アクロバット飛行の中で飛行機をジャックするシーンは凄かった。スタントマン大活躍である。それから麻薬王の用心棒役として、めちゃくちゃ若いベネチオ・デルトロが出演していたのに驚いた。若っ!? 若いころからあんなにヤバい目をしてたのね(笑)。

総じて、面白いんだけど前作と比べると見劣りする一本。ボンドがライセンスを失ってるから、本編の大部分において孤独な戦いをしているのが注目ポイントだ。だからボンドカーなどがあまり見れないのが残念である。あと無駄に残酷なシーンが多かったのは何なんだろう?

思ったんだけど、この映画が公開されたのは1989年。1989年といえば、ベルリンの壁が崩壊した年。もう冷戦も終わったわけだが、これからはどういうストーリーになるんだろう? だってスペクターももういないんだぜ?

私的評価:★★★★★★★☆☆☆ 7/10

 

80年代作品の総論。

ロジャー・ムーアがボンドを卒業したり、ショーン・コネリーが復帰したり、ティモシー・ダルトンが新たなボンド像を提示したりと様々なことが起こった80年代。個人的は、ここらの作品群はかなり面白かったと思う。『ユア・アイズ・オンリー』やティモシー・ダルトン二部作など、正当なシリアススパイ映画が帰ってきたのが嬉しかった。そして筆者は『オクトパシー』が結構好きである。なんか楽しい。残念だったのは『ネバーセイ・ネバーアゲイン』と『美しき獲物たち』で、双方とも記念すべき作品なのに、イマイチ面白くなかったなあ…。『リビング・デイライツ』は今のところマイベストボンド映画である。ティモシー・ダルトン…なんで2本しか出てないの…?

 

以上、読んでくれてありがとう。時間がかかるかもしれないけど、全作感想を書くのでお楽しみに!

『劇場版AIR』の感想。こういう感想もあるんです!

※この記事は『AIR』が好きな人が読むと不快な思いをすると思います。

 

当ブログではゲームソフト『AIR』をかつて酷評したが(過去記事参照)、今回取り上げる『劇場版AIR』は原作が大嫌いな筆者でも楽しめる映画だった。

原作についてはこちら↓

lemuridae.hatenablog.jp

 

この映画は巨匠 出崎統が監督した2005年の劇場用映画である。原作ファンにはたいそう嫌われて黒歴史扱いされている本作だが、筆者は『劇場版CLANNAD』と同じく、非常に楽しむことができた。その理由はもちろん、原作に思い入れが一切ないからに他ならない。筆者が考えるに、この映画を楽しむために必要な条件は

  • 原作に思い入れがない or 原作が嫌い or 原作を見たことがない
  • 出崎統作品に親しんでいる or 出崎演出が好き or 出崎リテラシーがある
  • 昭和演出+萌え絵という組み合わせに笑える or カオスなものが好き

の3つだと思う。この条件のうち2つを満たしているのならば一見の価値ありだ。オススメする。また2つといわずとも、条件を1つでも満たしているのなら冒険してみる価値はある。そして条件を1つも満たしていないのなら…観るのはやめておいたほうが良い。なぜならこの映画、もう『AIR』の素材を使用しただけの別作品であり『AIR』ではないからだ(それが良い)。しかしそうは言っても一応は原作の映画化であるため、多少は原作に対する理解を要求される。だから完全な初見者にもオススメできない(出崎統が好きなら初見でも大丈夫だと思うが)。う~ん、なんとも微妙な作品である。しかし条件をすべて満たしている筆者のような奇特な人間には、この上なく面白い映画だった。

 

f:id:Lemuridae:20161104214931j:plain

© VisualArt's/Key/東映アニメーションフロンティアワークス

この映画は原作の『AIR』とは違う、『AIR』を題材にした一本の映画として見るべきである(ただし作中の随所に見られるシーンには原作理解が多少必要)。人間不信に陥っている青年 国崎住人と、自分の死期を悟った少女 神尾観鈴のひと夏の出会いと別れを描いた物語なのだ。原作にあった輪廻転生の要素や翼人がどうこうというくだりを“観鈴が夏休みのフィールドワークの中で調べている町の伝説”という設定にしてカット。伝説として残っている翼人の悲恋物語を自分の境遇と重ね合せるという形で話を広げながらも、あくまで一人の少女と青年の物語として完結させている。

そしてこの映画における主人公 国崎住人の人物像は良い。共感できるというか、良い感じの痛々しさがある。見知らぬ少女に「本気なんか見たことない!」と激昂し、人間不信で人との繋がりを自ら断ち切ろうとする。でも本心ではそれに憧れ、断ち切ることができない。わかりやすい危うさを抱えた等身大のキャラクターである(20超えててこのキャラってのもどうかとは思うが 笑)。彼が何事にも本気で打ち込まずのらりくらりとテキトーに生きているのは、何らかの結果が出て傷づくよりも、いっそ何もしないほうが良いと思ってるからだろう。筆者も結果を恐れて何もしないタイプの人間なので、その気持ちは痛いほどよく伝わった(笑)。だけど住人は心のどこかで何かに熱くなりたいという情熱を秘めていて、観鈴はそれを見抜いたから彼を放っておけなかった。

このテーマ、そしてこのドラマ、筆者は非常に好きである。若者の危うさと瑞々しさが描かれている。自分を「好きだ」と言ってくれた少女 観鈴の“命を懸けた本気”を住人が目の当たりにするラストシーンは、はっきり言って原作の何倍も感動した。これは一人の男の成長物語なんだよ! 「本気になるのがかっこ悪い」と思っている反抗期の中学生みたいな青年が、残された命を本気で生きる少女との出会いを経て、一生懸命生きることの大変さと素晴らしさを知る。彼はラストで逃げ場をなくしたわけだが、それが大人になるということだろう。「しばらくは観鈴と一緒だろう」という安っぽくない現実的なセリフが印象的で、彼はもうその後の人生において腐ることはないと思う。『劇場版AIR』は主人公がヒロインを助ける話ではなく、主人公がヒロインに救われる話なのだ。そう考えれば、お姉さんらしくなった観鈴のキャラクターにも納得できるはずだ。

 

次は映像や演出について書こう。力強い演出を得意とする出崎監督のことだから、この映画でもめちゃくちゃなことをしてるんだろうな〜と思って見始めたわけだが、案外この題材に合っていた。なぜなら『AIR』の舞台は真夏のど田舎!出崎演出が違和感なく入り込める絶好の舞台だからだ。透過光やハーモニー処理は太陽の光として過剰な感じはしないし、それに原作からかなりファンタジー的な要素があるため、強烈な演出にも耐えうる条件は揃っていた。

f:id:Lemuridae:20161104215011j:plain

© VisualArt's/Key/東映アニメーションフロンティアワークス

CLANNAD』の場合はわりと現実的な世界観だったから出崎演出が出るたびに爆笑していたわけだが、こと『AIR』に関しては普通に違和感なく溶け込んでいる(鬼の太鼓には爆笑したけど)。またキャラクター達は原作の好みが分かれる絵柄から万人ウケを狙える等身の高い絵柄になった上、CGで上手く表現された海や雲の流れなどの背景もクオリティが高い。上記二点から、映像美を楽しむ映画としては満点とも言える(どうして『劇場版CLANNAD』はあんな作画になってしまったんだ?)。そしてキャラ変更によって原作プレイ時には全く魅力がなかったキャラクター達を可愛いと思えた自分に驚いた。

 

と、ここまでこの上ない絶賛をしたが、それは筆者が原作が嫌いであり、なおかつ出崎統作品が好きだからである。出崎監督の『AIR』への改変を見て、「そうだよな!出崎さん!そこカットした方が良いよな!」と、好きな監督が嫌いな作品をめちゃくちゃにしているところを楽しんでいるわけであり、決して一本の映画としてそこまでよく出来ているわけではない(正直に言えばあの酷い原作よりは何倍もよく出来ていると思うが)。だからそういう感想もあるんだなぁ〜くらいで、この記事に関しては勘弁してほしい。筆者も別にアンチではないので、もう二度とKey作品を批判しないつもりだ。筆者と『AIR』の対立はここにて終了を宣言する。

というわけで、読んでくれてありがとう!

 

劇場版 AIR スペシャル・エディション (初回限定版) [DVD]

劇場版 AIR スペシャル・エディション (初回限定版) [DVD]

画像は全てDVDより。
 

 画像は全てDVDより。

007シリーズ初心者が年代順に観て感想を書く! 70年代編

世界一有名なスパイ映画、『007シリーズ』を観たことがない!そんな状態から抜け出さなければならないと唐突に思い立ち、当ブログではシリーズ全作品を年代順に観て感想を書いている。既に60年代の作品の感想は書いているのでそちらは過去記事を参照!この記事では70年代の作品の感想を書くので、暇な人は読んでみてくれ。では。

 

lemuridae.hatenablog.jp

lemuridae.hatenablog.jp

lemuridae.hatenablog.jp

lemuridae.hatenablog.jp

 

7.『007 ダイヤモンドは永遠に

1971年公開のシリーズ第7作。ショーン・コネリーの復帰作にして、彼のジェームズ・ボンド卒業作である。どうやら前作のジョージ・レーゼンビーのボンドが不評だったことによる1作限りのカムバックだったようだ。前作を見た時は2代目ボンドもなかなか良いと思ったのだが、本作を見るとやっぱりショーン・コネリーこそがボンドだよな~と思ってしまった。安心感が桁違いである。

前作の一件でボンドがブチギレしている冒頭を見て、どうやら役者が変わっても話は続いているらしいということが分かった。…ということはボンドは何歳になるのだろう? 本作ではショーン・コネリーがちょっと老けた感じがするので、キャラとしてのボンドの老化が心配になってきた。まあ次作からはまた役者が変わるわけだが。

見どころはエレベーター内での格闘シーン。ここは生々しいリアルな攻防が描かれてて本当に素晴らしい。狭い場所での取っ組み合いはボンド映画の見せ場だと再認識した。それからラスベガスでの警察とのカーチェイスも、それまでの007映画のカーチェイスとはまた違ったもので非常に新鮮だった。

総論として、残念ながらマンネリ感が強い。なんというか、いつもの007という感じだ。確実に楽しいわけだが、ショーン・コネリーの最後の作品なんだし、もっと集大成感を出してほしかった。それからそこそこシリアスに話が始まったかと思いきや、ホモの殺し屋・月面車での追いかけっこ・カリオストロ的ワイヤーアクション・謎の新体操女・衛星ビーム兵器など、わけが分からないシーンが多い。そういうところがいつもの007なわけであり、マンネリの原因なわけである(笑)。

私的評価:★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

 

8.『007 死ぬのは奴らだ

1973年のシリーズ第8作。ロジャー・ムーアによる3代目ジェームズ・ボンドのデビュー作である。ロジャー・ムーアは彼なりのボンド像を始めから全開で出しているところが2代目ボンド、ジョージ・レーゼンビーと対照的だ。役者の交代と共にボンドのキャラクターが変わっているので(葉巻派に転向してるし)、最初のうちは「こんなのボンドじゃねえ!」と思いながら観ていたんだけど、30分くらいで「これはこれでありかな…」という気がしてきた。いつまでもショーン・コネリーの物まねをしているわけにはいかないしね。印象としては、ロジャーボンドは軽い感じだ。

この映画、もう本気でふざけている。ギャグ映画なのか…?と何度も混乱した。イメージでいえば『インディ・ジョーンズ魔宮の伝説』に近い。むちゃくちゃなシリーズの中でも、さらにギャグ成分が多いのだ。なんでも未来予知できるタロットカード、異常な磁力の腕時計、ブルース・ブラザーズ並みにハチャメチャなボートチェイス、ワニの上を疾走するボンド…これらのシーンには真面目に大笑いした。なんやねん(笑)。さながら『クレヨンしんちゃん』である。今にして思えば、『女王陛下の007』はバカ映画化していくシリーズの軌道修正を果たそうとしていたのかもしれない。あ、一応誤解の無いように言っておくが、バカ映画ってのは別に侮蔑の意味で言ってるわけじゃないぞ。

結論、これからロジャー・ムーアが彼なりのボンド像を見せてくれそうで楽しみである。しかし彼の演じるボンドは全然強そうに見えないのが残念だ。全然迫力がない。前作のエレベーターでの取っ組み合いみたいなシーンはしばらく見れない気がする。

私的評価:★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

 

9.『007 黄金銃を持つ男

1974年のシリーズ第9作。前作に引き続き、かなりはっちゃけた内容になっている。正直、そろそろシリアスで緊張感のある007が見たくなってきた。さすがに笑わせようとし過ぎじゃないか? 前作のギャグ用員、ペッパー保安官がまさかの再登場を果たした上に、両津勘吉並みのハチャメチャ警官ぶりを発揮。そして彼らが爆走させる車が宙を舞うシーンで間抜けなSEが入ってたので、これはもう確信犯なのだとわかった。

中川「せ、先輩だ…」

ってカットを途中で入れても違和感ないと思う(笑)。

この映画、出演している役者さんたちがみんな良い。あのクリストファー・リーが本作の敵役 “黄金銃を持つ男” を味のある素晴らしい演技で演じているし、(『スター・ウォーズ』が好きな筆者は、冒頭で「ドゥークー伯爵、若過ぎ!?」とかなりの衝撃を受けた)本作のボンドガールは当社比で最も可愛い(常にビキニ姿なのも目の保養になる)。それから『ハワード・ザ・ダック』のような小人さん、アクションがキレキレの女子高生、上述したペッパー保安官など、役者さんの個性が色濃く出てるキャラクターが楽しい。

結論、クリストファー・リーが “サーカス出身の紳士的な殺し屋” という陰がありながらも愛嬌のあるキャラクターを見事に演じていて、それだけで楽しめる。だけどそろそろシリアスなのが見たいかな。本作はさすがにボンドが情けなさ過ぎるのが嫌だ。力士に負けるボンドなんて見たくないというか、どうやら筆者はロジャー・ムーアのボンドがあまり好きではないようだ。なんというか、彼のボンドは格闘シーンがショボい。途中の『燃えよドラゴン」みたいな武道大会のシーンなんかは、ショーン・コネリーだったら見所になってたと思う。

結局、乳首が3つあるって設定は何のためにあったんだ?

私的評価:★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

 

10.『007 私を愛したスパイ

1977年のシリーズ第10作。英ソの原子力潜水艦が突然行方不明になるという事件が発生。利害の一致から協力関係になった英ソは、事件解明のためにそれぞれ自国最高のエージェントを派遣する。英国最高のエージェント ジェームズ・ボンドは、ソ連最高の女性エージェント トリプルⅩと共に黒幕を探すのだった…というストーリー。製作されたのは1977年、冷戦の緊張緩和によってこのような話が生まれたのかと思うと興味深い。

最初に書いてしまうが、この映画は非常に面白い。今ひとつパッとしない前作や前々作と比較すると頭一つ抜きんでている。正直『007は二度死ぬ』以降のシリーズは作業的に観ている部分が少なからずあったのだが、この映画は最初から最後までずっと惹きつけられてしまった。期待していたシリアスな路線とは全く違ったが(笑)。

冒頭は『女王陛下の007』のような雪山でのスキーチェイスから始まる。いきなりアクションから始まるのが良い。ここでボンドが雪山の断崖絶壁からパラシュートで脱出するシーンがあるのだが、パラシュートがド派手なユニオンジャック柄で笑った。ジェームズ・ボンドよ、お前は素性を隠す気があるのか…?

その後、この冒頭のシークエンスでボンドに返り討ちにされたソ連の刺客が今作のボンドガールの恋人だったという事実が判明する。そしてこのボンドガールというのが上述したソ連の女性エージェントである。もうお分かりだろう、反目しあう2人が共に窮地を乗り越えながら互いを理解していく、という話だ。この、すぐに喧嘩を始めるドタバタコンビが世界を股にかけて大冒険するバディームービーのような趣が素晴らしく、ロジャーボンドの軽さがストーリーに上手く機能していて良い。喧嘩するほど仲がいい状態というか、互いに素直になれないシーンが可愛くて仕方ないのだ。この味はロジャー・ムーアじゃないと出せなかっただろう。

全体を通すと『ゴールドフィンガー』に近い。かなりバカバカしいんだけど、クールさは損なわれていないのだ。前作がふざけ過ぎ感があった中、本作はそれと同じか、あるいはそれ以上に はっちゃけたシーンが多いのだが、露骨に笑いを狙いに行っていないといえば良いのか、とにかくそこまで間抜けじゃない。しかしジョーズという名の、某巨大鮫を想起させる殺し屋が登場するのだが、こいつだけはもうわけが分からない。鉄の歯で標的を噛み殺すというとんでもないキャラクターで、素手で車を引き裂くわ、鉄の鎖を噛み切るわ、撃墜するヘリに乗っていても死なないわ、ホオジロザメをも食い殺すわ、基地ごと爆破しても生きてるわ、というターミネータばりの不死身のキャラである。結局最後まで生きてるんだが、こいつは何だったなんだ?(笑)もはや間抜けというか何というか…どーゆうコンセプトやねん!筆者のツボにはまって、出てくるだけで嬉しかった。

結論、オススメの一本である。オープニングが音楽・映像共に今までで一番カッコいい。そして007ならではのアクションシーン(秘密兵器やボンドカーなど)が多いうえ、様々なロケーションが楽しめるという点で、旅映画としても良質だと思う。70年代作品では今のところベストだ。

私的評価:★★★★★★★☆☆☆ 7/10

 

 11.『007 ムーンレイカー

1979年のシリーズ第11作。アメリカからイギリスに輸送中のスペースシャトルムーンレイカー」が突如ハイジャックされる事件が発生。事の真相を解明すべく、英国情報部はジェームズ・ボンドを派遣した…というストーリー。なんと本作の舞台は宇宙!ジェームズ・ボンド、遂に宇宙進出である。なんだか『スター・ウォーズ』の影響を感じさせる一本だった。

飛行機から落下する冒頭のシークエンスでいきなりワクワクさせられる。このシーン、いつものチープな合成には見えなかったが、どうやって撮影したのだろう? まさか本当に落下してるわけではないよな…。映像技術が発達してない頃の映画だからこそハラハラさせられた。

敵の配下に変な日本人がいるのが面白い。フランス風の建物の中で一人だけ着物を着ているので、めちゃくちゃ浮いている。なんとも言えない顔が笑いを誘うこの男が剣道着と竹刀を身に着けてボンドを待ち構えているシーンで爆笑した。なぜにその恰好、その武器? せめて日本刀を持てよ(笑)。しかしガラス工芸品を豪快に割りながら対決するシーンは意外に面白い。

そしてまさかの前作から続投する不死身キャラ、ジョーズ。本作ではなんだか可愛いキャラになっているのに笑った。女の子に恋しちゃったり、満面の笑顔を見せてくれたりと、全作とはまた違った面を見ることができる。ボンドとは意外な形で決着がつくので、これまた必見である。

舞台は宇宙だと上述したが、ずっと宇宙にいるわけではない。序盤から中盤までにかけてはヴェニスの街並みやリオデジャネイロの祭りを堪能できる。正直、これらのシーンが雰囲気含めて非常に良かったため、宇宙に行くのはやめてほしかった。というか宇宙に行くまではシリーズでも上位の面白さだったのだ。

結論、これを言うとこの作品を全否定することになってしまうわけだが、007に宇宙要素は要らない。中盤までは楽しかったのに、宇宙に行ってからのラスト30分ほどは本当に退屈だった。宇宙でビームを撃ち合う絵面は007に求めてない。ドアロック解除の音が『未知との遭遇』と同じだったシーンを見て、この作風が、いわゆる当時のSFブームに便乗した結果だと理解した。007には007の良さがあるんだから、流行に乗らなくてもいいのにな。しかしここまで全否定している宇宙のシーンだが、時代を考えると非常にリアルである。『007は二度死ぬ』の宇宙シーンは失笑もののお粗末さだったが、こちらはなかなかの現実味がある。そのように素晴らしいからこそ、この宇宙描写は別の映画で見たかった。

私的評価:★★★★★☆☆☆☆☆ 5/10

 

70年代作品の総論。

ショーン・コネリーからロジャー・ムーアに交代した70年代。ボンドはロジャー・ムーアによって親しみやすい軽いキャラクターとなり、ストーリーもどんどんと荒唐無稽になっていく。続けて一気に観ているからというのもあるだろうが、なんというかそろそろマンネリ化していっている気がした。その中で突出して面白かったのが『私を愛したスパイ』。これはジョーズが象徴するようなバカバカしいシーンも多いのだが、それまでの要素がきれいに集約されていて、シリーズの中盤の集大成だと思う。というかそれ以外は別に言うこともないかな…。敢えて言うなら、『死ぬのは奴らだ』と『ムーンレイカー』はふざけ過ぎです。

 

そういうわけで、読んでくれてありがとう。80年代作品の感想も書くので、そのときはよろしく。