オタクノ作る時間

主にノベルゲームについて取り上げてきた元学生のブログ

科学ADVシリーズ第1段『カオスヘッド』を紹介【ネタバレなし】。

 ※紹介するゲームは一部、18歳以上対象のものを含みます。

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プレイステーションヴィータ用ソフト『CHAOS;HEAD DUAL』をクリアしたので感想を書く。実はこのゲーム、様々なハードに移植さえているうえに、筆者自身もPSP版とXBOX360版で既に体験済みであった。なので今回はゲームの感想に加えて、筆者が知りうる限りのハード別の比較なんかも書こうと思う。なお、ネタバレを抜きにするためにストーリーの深いところにまでは言及しない。だからこのページは、まだこのゲームに触れたことがない人向けになると思う。このページを見て『カオスヘッド』に興味を持ってもらえたらうれしい!

 

カオスヘッドデュアル』は妄想科学アドベンチャーCHAOS;HEAD NOAH』とそのファンディスク CHAOS;HEAD らぶChu☆Chu!』の2本を収録したPSVITA用ソフトである。それでは、以下に『CHAOS;HEAD NOAH』と『CHAOS;HEAD らぶChu☆Chu!』の感想を書こう。

 

CHAOS;HEAD NOAH』

 

CHAOS;HEAD NOAH』は渋谷を舞台に、キモオタの高校生 西條拓巳が「ニュージェネレーションの狂気」と呼ばれる連続猟奇殺人事件に巻き込まれていく姿を描いたサイコサスペンスである。ゲシュタルト崩壊夢遊病・乖離性二重人格・集団ストーカーといった精神的に追い詰められる要素を多く含み、それらが執拗かつ詳細に描かれるテキストは、読む者の心に重くのしかかる。このテキストだけでも十二分に追い詰められる内容なのだが、もちろん視覚からくる直接的な残酷表現(グラフィック)にも力が入っていて、生理的な嫌悪感も満載。主人公が世間から隔絶された引きこもりであり、なおかつ「妄想」をテーマにしていることから来る“誰にも助けてもらえない”という閉塞感や絶望感、どこまでが妄想でどこからが現実なのかわからなくなる恐怖演出を楽しもう。

このゲーム、非常に独特な魅力を持ったゲームであるため、唯一無二の作品と言える。だからギャルゲーだと思って気軽にプレイすると大変な目に合うということは、ここにちゃんと書いておきたい。同ジャンルであり続編の『カオスチャイルド』とも似て非なるものであり、こちらのほうが主人公が孤独かつ閉塞感がある。特に、BGMをあまり使用せず、“人々の囁きや・環境音・PCの駆動音” といったノイズを強調する音響演出が、孤独感を尋常じゃなく盛り上げてくるのが凄い。たまには劇薬に触れてみたい人や追い詰められる恐怖に浸りたい人はぜひともオススメである

…と書いたが、追い詰められる恐怖に浸りたい人なんて、まあいませんわな(笑)。もう大体わかっていると思うが、このゲームはプレイしていて非常にしんどい。本当にひたすら精神的に追い込まれる話だから、非常に人を選ぶ内容になっている。筆者自身も今でこそ好きなゲームの一つになっているけど、初見の時は「誰得だよ…」と思った。よっぽどのマゾじゃないと喜べないだろ…と。しかし安心してほしい。本作は終盤に進むにつれてヒロイックな展開になっていくので、読後感が意外に爽やかだ。わりとイライラさせられるシーンも少なくないので難しいかもしれないが、最後までたどり着ければそれなりに満足できると思う。

…とはいえやっぱり、自分が好きでも他人に勧めるべき内容ではない。しかしこのゲームは傑作『シュタインズ・ゲート』などと世界観を共有する科学アドベンチャーシリーズの第一作であるため、シリーズ全体を通して楽しみたいのであれば、決して避けて通ることは出来ない。それに続編にあたる『カオスチャイルド』が本当にガチでマジの傑作なので、本作はプレイしておいたほうが良いと思う。つまりカオスチャイルド』を楽しむためにプレイするのがオススメです

 

CHAOS;HEAD らぶChu☆Chu!』

CHAOS;HEAD らぶChu☆Chu!』は『カオスヘッド』のファンディスクである。“典型的なギャルゲ”の要素を(ギャグとして)過剰なまでに詰め込んだゲームになっており、凄惨な本編とのギャップがプレイヤーを笑わせてくれる。サイコサスペンス的な方向で壊れたヒロイン達と、まさかのラブコメを楽しむことができるので、重苦しい本編を終えた後にプレイすると最高に笑えるし、救われる(笑)。また、ユーザーインターフェイスや音楽、ポップな演出などにも力が入っており、ファンディスクとしての完成度も非常に高い。さらには “ファンディスク”と銘打ちつつも、実質的にはカオスヘッド 完結編』とも言えるほどしっかりしたストーリーが展開される。だから本編、あるいはシリーズのファンであるならば、必プレイの一本だ。筆者はこのたび初めてCHAOS;HEAD らぶChu☆Chu!』をプレイしたのだが、何度も爆笑したし、非常に楽しかった。本編を愛せるようになって、キャラにも愛着を持てるようになってからプレイするべきだろう。ただ15時間ほどで終わってしまうのと、個別ルートのボリュームが少ないのは残念である。

筆者は萌えアニメなどを気持ち悪がってるタイプの人間だったのに、いつの間にかこういうゲームをニヤニヤしながらプレイする人間になっていたなあ…( ̄▽ ̄)

 

最後に『CHAOS;HEAD NOAH』のハード別の違いを筆者が知っている限り書く。

 ↓ 左からPSVITAXBOX360PSP

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まず最大の違いは、XBOX360版とPSVITA版が18歳未満お断りなのに対して、PSP版とPS3版は誰でもプレイ可能である。なのでもちろん18禁バージョンと全年齢バージョンには表現の違いがある。具体的に言うと18禁バージョンにある残酷・ゴア表現が全年齢版ではカットされているのだ。だから内容的には18禁バージョンが無修正かつノーカットにあたるので、筆者としては18禁バージョンをお勧めする。全年齢版では過激表現のカットによって話が分かりづらいうえに、そういう表現が苦手な人がプレイできるほどマイルドになってもいない。つまり中途半端な規制なので、わざわざ残酷なこのゲームを遊んでみたいと思った人であれば、迷わず18禁バージョンをプレイするべきである。あ、もちろん18歳に達してない人はダメだよ?(笑)

そして当たり前の話だが、据え置き機であるXBOX360版は大画面でプレイすることができるうえに、解像度が最も高い。ハイビジョンかつドルビーデジタルにも対応しているから、最もリッチなゲーム体験ができると思う。しかしこのXBOX360版にはシステム面に致命的な欠点がある。二周目以降の既読スキップの速度が異様に遅いのだ。これによって周回プレイが非常に面倒になっているので、筆者はあまりお勧めしない。どうしてもテレビでプレイしたい人には反対しないが…。

次はPSP版だが、こちらはゴア表現が規制されているものの、XBOX360版の後に発売されたこともあり、システム面が快適化されている。スキップ速度が快適なレベルにまで向上したし、その他の部分にも細かな快適化が施された。しかし筆者は初見がこのPSP版だったため、それでも操作性が悪いと思った。というのもPSPはハードの性能上、UMDの読み込みの長さと騒音がなかなかに煩わしい(これらの点はDL版とかなら問題ないと思う)。

PS3版は申し訳ないがプレイしていない。しかし聞いた話では、規制済みのバージョンが大画面でプレイできるそうだ。同じく据え置き機であるXBOX360版と違ってスキップ速度も快適であり、非常にカッコいいオープニング映像が追加されてもいる。表現規制の問題はあるが、大画面でプレイしたいのであれば選択肢としてありだと思う。解像度や音響も申し分ないはずだ。

最後にPSVITA版。こちらはXBOX360版をベースに、PS3版のオープニングやスキップの快適化、ショートカットなどを追加してある。PSVITAのソフト自体がディスク媒体ではなくカードリッジなので、スキップ速度はおそらく最速。二周目以降のスキップ待ち時間が非常に短くなって快適だった(初見とそうでないという差はあるものの、PSP版はクリアまで40時間、PSVITA版は23時間だった)。筆者的にはPSVITA版をお勧めするのだが、PSVITA版は、立ち絵が切り替わる際に処理が遅れるという大問題も発生している。実は筆者もこれが原因でなかなかPSVITA版に手を出せなかった。Amazonレビューなんかでも問題視されていたからだ。しかし擁護しておくと(他のゲームを酷評してるのに致命的なバグを擁護するのもどうかと思うが)個人的にはそんなに気にならなかった。というのも、立ち絵とテキスト表示が遅れても、音声は問題なく流れるので、一時停止で待たされるわけではないからだ。とはいえまあ、良くないことには変わりないが(ちなみにCHAOS;HEAD らぶChu☆Chu!』のほうは何の問題もないので心配なし)。

要するに、PSVITA版がオススメです!

 

というわけで『カオスヘッド』の紹介でした。読んでくれてありがとう。

 

 

 科学ADV第2段↓

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科学ADV第3段↓

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科学ADV第4段↓

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007シリーズ初心者が年代順に観て感想を書く!ダニエル・クレイグ編

当ブログでは007初心者の筆者がシリーズの作品を年代順に観て感想を書いている。今までは70年代、80年代と年代別にページを分けて書いていたんだけど、前の記事からは俳優別にページに分けて感想を掲載した。そのほうが分かりやすいと思ったからだ。とういうわけでこのページではダニエル・クレイグの007の感想を取り扱う。ネタバレを含んでいるので注意してほしい。

 

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21.『007 カジノ・ロワイヤル

2006年のシリーズ第21作にして初のリブート作。6代目ボンドを演じるダニエル・クレイグの007デビュー作でもあり、それまでの作品群とは設定の異なる新たなシリーズの出発点として、007となった直後の若きジェームズ・ボンドが描かれる。いわゆる前日譚、エピソードゼロというやつである。ダニエル・クレイグの演じるボンドは金髪で青い目が特徴的な、歴代でも異色のボンドだ。007になりたてという役どころもあるのだろう、まだまだ粗暴で余裕がない。個人的にボンドのイメージ像と異なるダニエル・クレイグだったが、リブートされたボンドとしてみるとなかなか良い。プーチン大統領のような怖い顔立ちも、有り余る筋肉も、若くて粗暴なボンドにピッタリである。これはこれでありというやつだ。

この映画、普通に面白かったのだが、これって007か?と何度も首をかしげさせられた。前日譚ということで今までの“お約束”はほとんど登場しないし、何よりボンドが孤独すぎる。物語の中でまだ出会っていないために、マニーペニーやQといったお馴染みのキャラクターが出てこないのだ。そしてハイテクなガジェットも全然登場しない。う~ん、それならせめて派手なカーチェイスくらいは欲しかったなあ。パルクールとかは別に007で見たいものじゃないし。

この映画はシリーズのリブートとして荒唐無稽な要素を排除し、シリアスな物語にしたかったのだろう。確かにそれは上手くいっていて、全編に渡って格式高い緊張感が保たれている。しかし残念なのが、それと比例して007らしい楽しさが少ないこと。派手なドンパチは少ないしアクションが非常に暴力的である。そして何より不満だったのがタイトルにもなっているカジノのシーンだ。別に何のイカサマもトリックもない普通のポーカーをけっこう長い間見せられる。おしゃれでかっこいいんだけど、もうちょっと緊張感がある駆け引きや心理戦が見たかった。ましてやギャンブルに負けて腹を立て、ナイフを持って暴力的な手段に訴えようとするダサいボンドなんて見たくない。いつでも紳士なのが筆者の中のボンド像なので、ちょっと本質から外れている気がした。ピアース・ブロスナンのシリーズを観た時も、それまでの007とは違うような気がしていたのだが、本作を見るとあっちはちゃんと007だったんだな~と思う。

総論として、まったく新しい007である。冒頭のシークエンスからのオープニングへの入り方やマティーニとの出会い、ラストの締め方なんかは前日譚ならではの魅力があり、新シリーズの始まりとしては成功作と言えるだろう。これからのダニエルボンドに期待させてくれる。しかし一方で、前日譚ゆえの“お馴染み”の喪失や生々しい拷問シーン、あまりにも人間臭すぎるボンドなんかは見たくなかったかな。なんだかんだで自分は過去シリーズへの思い入れが強いのだと自覚した次第である。

私的評価:★★★★★★★★☆☆ 8/10

 

22.『007 慰めの報酬

2008年のシリーズ第22作。シリーズ初の直接的な繋がりを持つ続編であり、前作『カジノロワイヤル』直後の物語が描かれる。前作と本作のセットで一つの物語が完結する構成だ。う~ん…なんというか、作品単体で楽しむことができるのがこのシリーズの良いところだと思っていたので、この前後編構成はあまり嬉しくなかった。確実に前作の話を知っておかないと楽しめないと思う。

冒頭は前作の直後から始まる。いきなりめちゃめちゃカッコいいカーチェイスが始まって大興奮。さらにタイトルシーンが映像も曲も最高にオシャレかつカッコよくて、叫びそうになった。必然的にこれからどんなスペクタクルを見せてくれるのだろうと期待は高まる。しかし本作は最も楽しめるのがこの冒頭のシーンで、それからはどんどん尻すぼみになっていくシリーズ最低の出来であった。

この映画、筆者は嫌いである。この映画のジェームズ・ボンドはいつも怖い顔をしていて、なんでも暴力で解決しようとする。なにかあったらすぐにブチギレて殴り込みすることしか脳がない。 ピンチの時でもいつも冷静で、ぱっと機転を利かせて危機を逃れるのがボンドなのに、この映画ではとりあえず敵を殺すだけである(もはや作中でも上司にたしなめられるほどに)。しかも何かと言うとすぐに死んだ恋人のことを引きずってうじうじするし、酒に酔いつぶれるし、もはやそこに英国紳士の姿はない。話自体もボンドとボンドガールそれぞれの復讐を描いたもので、ず~と暗い顔をしている。別にジェームズ・ボンドの人間性とか弱さとか求めてないんですけど!って感じだ。旧シリーズのボンドみたいに、“死んだ奥さんの話をされるとちょっと悲しい目をする”くらいで良かったのに、べらべらと自分の弱さを語るんじゃあない。確かに『消されたライセンス』もボンドの復讐の話だったが、あっちはまだスマートさがあったぞ。

秘密兵器やボンドカーが登場しない。贅沢な酒や食事パーティがない。かっこつけて煙草や葉巻を楽しまない。女と遊んだりしない。全ての女が一目で惚れる憧れのジェームズ・ボンドは『慰めの報酬』にはいない。その魅力がダニエル・クレイグのルックスに終始する等身大のヒーローを描いた作品に、007という冠をつけないでほしかった。というかそういうことをやりたかったのならどうして前作のラストで“007誕生!”みたいな終わらせ方をしたんだ?

それでもアクションシーンが良ければここまで最低の映画にはならなかったはずなのだが、この映画はそこも上手くいっていない。たしかにアクション自体は迫力満点なのだが、やたらと画面を揺らすわ、カット割りを細かくするわで、何をやっているのか全然わからないし、見づらい。ダニエル・クレイグ渾身のアクションも見えなければ何の意味のないではないか。もったいないな~…。

総論として、007とは何かを思い出させてくれた作品。マンネリを打破するために製作陣が施してくれた仕掛けがことごとく気に入らなかったので、筆者にとってはシリーズ最低の一本になってしまった。う~ん、例えばリアリティを追及するためとはいえ、“ゴジラが放射熱線を吐かない”・ルークがうじうじしててライトセーバーを使わない”・“ルパンが一切ふざけない”なんて改変は許されない思う。本作がボンドにしたことはこれらと同じくらい本質を否定したものだと思ったんだけどなあ…。まあ本作ラストでガンバレルのシーンがあったし、これで遂にダニエルボンドは007となったのだろう(前作のラストでなったと思ったのに!)。次作の『スカイフォール』ではいつものボンドを見れることを期待している。

私的評価:★★★☆☆☆☆☆☆☆ 3/10

 

23.『007 スカイフォール

2012年のシリーズ第23作にしてシリーズ50周年記念作品。傑作の呼び声も高く、歴代最高の興行成績を記録した007でもある。筆者が好きな映画評論家やコラムニストも、こぞって絶賛していたので、非常に楽しみにしていた映画だ。しかし実際に観終わった感想としては、この映画は駄作だと思う。本作を見て確信したのだが、筆者はダニエル・クレイグの007シリーズを楽しめないタイプの人間であるようだ。どう頑張っても昔の作品群とは別物として観ることはできないから、観ていてイライラしてしまった。まあ、すべてが自分の責任ではあるが。

まずストーリーが悪い意味でツッコみどころ満載である。確かに旧シリーズからツッコみどころ満載だったのは認める。しかしあっちはエンタメ全開かつ荒唐無稽なので気にならなかった。楽しいシーンがたくさんあるから笑って許せたのだ。では『スカイフォール』はどうか? こっちは全編に渡りカッコつけてシリアスぶってるくせに、何から何までおかしい。登場人物の全員がアホすぎて見ていて呆れる。何がシリアスだよ、バカ脚本じゃねーか。そのアホさは旧シリーズの夢のある秘密兵器のアホさを遥かに越えている。こうやって批判すると「そういうふうに重箱の隅をつつくようなこと言って何が楽しいの?」とか言われるのは目に見えてるが、こんだけツッコみどころ満載でノイズの多い物語に熱中することは、申し訳ないけど筆者にはできない。それから、アルコール中毒で復帰テストにも合格できないような落ちぶれたボンドなんて見たくないわ!

まあでも冒頭のアクションからオープニングまでの流れは百点満点ではある。主題歌のSkyfallもめちゃくちゃ盛り上がって(この映画で一番)楽しませてくれるし、ここだけでも金払った価値はあった。それからアクションも光をうまく使ってシルエットだけ映したりして、アートっぽくてカッコよかった。壊れた電車に飛び移って、乱れたスーツを正すシーンなんかは最高にクールだよね。ラストのホーム・アローンみたいな篭城戦のつまらなさ以外、アクションを総じて楽しめたことに関しては、前作から格段の進化である。

総論として、がっかりさせられた一本。ちょくちょく挟まれるシリーズのオマージュとかは楽しいんだけど、そういうのは本筋がしっかりしてるから良いのであって、そこだけやられても喜べない。仏作って魂入れずというやつだ(使い方まちがってる?笑)。まあそれでも『ゴールドフィンガー』のボンドカーが現れ、あの音楽が流れるシーンはテンション上がったけどね(全然活躍しないのでまたガッカリしたけど)。それからやっといつもの部屋にM、マニーペニー、そしてQが揃ったわけだが、“そして007は始まる…”エンドを三作連続でやるのは勘弁してほしい。詐欺だろ。

私的評価:★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

 

24.『007 スペクター』

2015年のシリーズ第24作にして、今のところのシリーズ最新作。今後どうなるかはまだ分からないものの、とりあえずダニエル・クレイグによるシリーズの完結作でもあるらしい。ああ、遂にシリーズ全作を観おわってしまった…楽しい時間だったな~。

それではこの『スペクター』がどうだったのかを書こう。うん…そうだな~、イマイチだったかな。いやがおうにも期待が高まるタイトルとプロットのわりには、今一つ盛り上がらなかったという感じだ。前作ラストにて遂に一同に会したボンド・マニーペニー・Q・Mという黄金メンバーと『カジノ・ロワイヤル』『慰めの報酬』『スカイフォール』にて暗躍した闇の組織(しかもタイトルでスペクターだとわかる!)の戦い。こう書くだけで、もう傑作になる要素しかないと思っていたのだ。実際それはある程度うまくいっていて、尋常じゃない緊張感で行われるスペクター幹部の会合のシーンなんかは非常にゾクゾクさせてくれた。あのシーン、スペクターがさながらイルミナティ三百人委員会のような不気味さと強大さを感じさせてくれて最高だった。

しかしそれも練られていない脚本と、前作の迫力がどこに行ったのかわからないショボいアクション(特に敵のアジトを脱出するとこは酷すぎる)によって台無しにされてしまう。もしこの映画が2時間以内の上映時間だったら、その場の興味の持続で楽しかったと思う。だけど2時間30分近くも使って重厚な雰囲気や絵作りをしている割には登場人物がバカばっかりで、なんていうか単純に退屈なんだよね。シリーズ最長の上映時間によって、見事に中途半端な作品になってしまった。『ダークナイト・ライジング』と同じ匂いがする。

そして映画のタイトルから確実に登場すると予想していたブロフェルドが登場し、その正体がボンドの義兄弟だったという、やたらとミニマムスケールの展開(セカイ系かよ)に驚愕する。とってつけたように負傷して、いつものブロフェルドの容姿になるシーンを見て、なんだかな~と思った。もともと間抜けなキャラだったけど、今回は間抜けのベクトルが違うだろ…。父親を巡る愛憎劇というテーマも、前作で描かれた母親を巡る愛憎劇と大した差がなく、新鮮味に欠ける。そして、ヘリを銃撃してKOという呆気なさすぎる決着に震えよう!

総論として、結局最後までダニエル・クレイグのボンドは好きになれなかったという感じだ。まあそれでも彼の作品群の中では本作が一番007っぽいけどね。ボンドカーとか出てくるし。それから『ロシアより愛をこめて』オマージュ(あるいは『私を愛したスパイ』?)の列車の中の取っ組み合いは楽しかったです。冒頭の“死者の日”もテンション上がったね。

私的評価:★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

 

ダニエル・クレイグ作品の総論。

ダニエル・クレイグによる新生007シリーズは良くも悪くも従来の作品群と全然違うので、視聴者が007というタイトルに何を求めているかが問われると思う。筆者はダニエル・クレイグによるジェームズ・ボンド像が受け入れられなかったので、シリーズで最も“これじゃない感”のする4本だった。こういう“モノづくり”においては、いつも「新しいことをしたいクリエーター」と「いつものを見たい老害視聴者」が対立してると思う。そして今回、筆者は老害だったわけだ。それまでの007を否定されたような気がして、何なら怒りを覚えたシーンも少なくない。でもまあ、『カジノ・ロワイヤル』は良い映画だと思う。筆者に言わせると、このシリーズ的なボンドは『カジノ・ロワイヤル』だけで十分なんだよね。ボンドになるまでは『カジノ・ロワイヤル』で描き切ってるし、『スカイフォール』の落ちぶれたボンドなんて誰得だよって感じ。最後に一つだけ言いたいのは、楽しめなくて残念だった!

007シリーズ初心者が年代順に観て感想を書く!ピアース・ブロスナン編

当ブログでは007初心者の筆者がシリーズの作品を年代順に観て感想を書いている。今までは70年代、80年代と年代別にページを分けて書いていたけど、ここからは俳優別にページに分ける。そのほうが分かりやすいと思うしね。とういうわけでこのページではピアース・ブロスナンの007の感想を取り扱う。良かったら読んでいってほしい。

 

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17.『007 ゴールデンアイ

1995年公開のシリーズ第17作。ピアース・ブロスナンによる5代目ジェームズ・ボンドのデビュー作である。この映画、本当に心の底から楽しむことができる大傑作である。ちょっとそれまでのシリーズ作品とは別格の面白さだ。冷戦が終わり、また前作から6年の時が経ったこともあるのだろう。ここに新時代の007が誕生した。

ピアース・ブロスナンの演じる5代目ジェームズ・ボンドはスマートな男前で、スーツが良く似合うスタイリッシュで現代的なボンドである。印象としてはティモシー・ダルトンをよりクールにした感じだ。5代目ボンドはアクションがキレキレで、格闘シーンや銃撃シーンの迫力は歴代随一。スピード感のある銃撃戦を見ていると、007もついに今の映画のテンポになったのだな~と思った。その進化ぶりには文字通り歓喜するばかりである。

印象的だったのは本作の宿敵を演じるショーン・ビーンだ。筆者は『メタルギアソリッド』が大好きなのだが、この映画のショーン・ビーンリキッド・スネークの元ネタなんじゃないかな。存在感といい演技力といい、敵として不足なしだ。元々は相棒だったという設定も、愛憎入り混じる関係性がストーリーを盛り上げてくれる。ピアース・ブロスナンショーン・ビーンが並ぶと、本当に信じられないくらいカッコいい。そしてもちろん2人の戦いはたまらない。また、Mが女の人に変わったことにも驚いた。目力や迫力が半端なく、上司として良いキャラをしている。ボンドの実力を認めながらも馬が合わない感じが上手く出ていて、これからの2人の絡みに期待したい。

総じて最高に面白い一本。大迫力のアクションシーンや魅力的な宿敵、そしてSEXしながら相手を殺す歴代でも最高にイカれた悪女 ゼニア・オナトップ(名前がもう面白い)という凄まじい要素に満ちている。戦車で街中を爆走するといったとんでもないシーンがありながらもストーリーの緊張感が損なわれることはなく、常にシリアスさが保たれている。言うまでもなくピアース・ブロスナンのボンドもカッコいい。文句のつけようがないが、あえて一つ不満があるとすれば、新しくなり過ぎてなんか007感がしない。バカ映画らしさと冷戦の空気、それが007だったんだろう。その要素がないから、この映画は007というよりはリュック・ベッソンの『レオン』とか『メタルギアソリッド』(逆だけど)っぽく、007の名前だけ使った別のスパイ映画に見えなくもない。まあ、それも上手く進化したということなのだろうが…。というか音楽が同じ人だからだろうけど、レオン感がほんとに半端ない。この映画が大好きだけど、音楽は今までの人に担当してもらいたかった。

私的評価:★★★★★★★★★★ 10/10

 

18.『007 トゥモロー・ネバー・ダイ

1997年公開のシリーズ第18作。前作『ゴールデンアイ』を超えて、個人的に最高傑作である(映画としての完成度は前作のほうが高いと思うけど)。全編がアクションの宝庫であり、さらにボンドガールに香港映画界の大物 ミシェル・ヨーを迎えたことで最高に楽しめるアクション映画に仕上がった。退屈する暇を与えないジェットコースタームービーである。そしてシリーズの中の位置づけとしては、冷戦時代に囚われ、常に何となく古い印象を漂わせていたシリーズが現代においても成立することを示した重要な一本だと思う。完全に新世代の007として完成されているのだ。ただ、そうなるともはや別物感は否めない。アメリカ映画的なアクション大作である。しかし007としてどうとかいう問題を差し引いて考えても、この映画はなかなかの逸品ではないだろうか? 少なくとも筆者は今までで一番楽しんだ。

今回のストーリーはスティーブ・ジョブズみたいなメディア王が悪役で、その題材に時代を感じた。ああ、現代における007なんだな~。東西対立がなくなっても、まだまだ世界には脅威が残っている。時代と共に悪役は移り変わり、これからはテロリストが主な悪役になるのだろうか。

本作の魅力としては、上述したように香港映画界の大物 ミシェル・ヨーがボンドガールであるというところが挙げられる。その美貌と役どころは非常に良いキャラをして、ボンドに追っ手をまかせて抜け駆けするシーンなんかは、さながら峰不二子である。もちろん『グリーン・デスティニー』の時のようなカンフーアクションもたっぷり見せてくれる。ボンドに負けない強さを持ったボンドガールは非常に斬新で、ただ守られるだけのお姫様ではなく対等なパートナーといった感じが非常に良かった。その真骨頂がバイクでのチェイスシーンで、ここでは2人が手錠で繋がれた状態で香港映画のようド派手なアクションを繰り広げる。息が合うのか合わないのかよくわからないふたりの掛け合いは非常に楽しかった。

また今回のボンドカーはいつもより大活躍である。遠隔操作できるように進化した車は楽しい機能がたくさんついていて、その大立ち回りはシリーズ随一の名シーンではないだろうか。本作での立ち振る舞いを見て、ピアース・ブロスナンのボンドが本当に好きになった。現代的でありながらもショーン・コネリーのタフさとロジャー・ムーアユニークさを兼ね備えたハイブリッドなボンドだと思う。カッコいいし。

総論として『私を愛したスパイ』を現代の題材と映像技術で作り直したような映画だった。新時代の007であり、非常に面白い作品である。しかしそれまでの007感はないな~。ま、それが進化というものだろうが。

私的評価:★★★★★★★★★★★ 11/10

 

19.『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ

1999年のシリーズ第19作にして、20世紀最後の007。前作、前々作が文句なしの傑作だったのに対して、この映画は「勿体無い」という一言に尽きる惜しい内容だった。まず、ストーリーがここで紹介するのも難しいような複雑なものになっていて、前2作と比べてなんだか理解しづらい。おそらく純然たるアクション大作になった前作、前々作に重厚な人間ドラマを足したかったのだとは思うが、残念ながらそれが成功しているとは思えない。物語の肝心な部分がセリフで説明されるだけなので説得力に欠け、せっかく集めた豪華俳優陣や魅力的な設定も上手く機能していないのだ。この物語の核となる誘拐事件が描かれていないから、敵側のキャラクターの心情が理解できなかった。

一方、ストーリーに対してアクションは前作のような派手さはないものの、充分に楽しむことができた。冒頭のボートチェイスからのオープニングテーマへの導入は非常にワクワクさせてくれるし、ド派手なだけじゃない抑えたアクションがシリアスなストーリーと相まってなかなか良い。そしてそれらにジェームズ・ボンドのテーマを流すタイミングが上手く、否応なく燃えさせられる。一連のアクションシーンをカッコよく見せるピアース・ブロスナンは大したものであり、ルックスのカッコよさに加えて、主演三本目にして完全にボンドの役を掴んでいる。個人的には最高のジェームズ・ボンドだと思っている。

総論として、ピアース・ブロスナンの007の中では傑作までもう一歩な惜しい一本。やりたかったことはわかるんだけどな~。しかし『ゴールデンアイ』から登場した新任のMとボンドの絆のようなものを感じられたのは良かったし、ラストは笑わせてもらえる痛快な終わらせ方だった。ダメだとは思わなかったから、まさしく“惜しい”という言葉が当てはまる、普通に面白い映画である。

私的評価:★★★★★★★★☆☆ 8/10

 

20.『007 ダイ・アナザー・デイ

2002年の記念すべきシリーズ第20作にして40周年記念作品。またピアース・ブロスナンによるジェームズ・ボンドの卒業作でもある。その内容は、この映画が記念作品だということを頭に入れてから見れば納得のものだろう。ティモシー・ダルトンピアース・ブロスナン以降のスタイリッシュな雰囲気からショーン・コネリーロジャー・ムーアがふざけまくってた頃のようなバカ映画の雰囲気に回帰し、シリーズの集大成的なお祭り映画が生まれた。最新のVFXやCGなどをふんだんに用いて作られた荒唐無稽な映画で、ツッコみどころを挙げだすときりがない。まさしく、在りし日の007が帰って来た!という感じだ。しかし筆者はそんなことは知らなかったので、初見でぶったまげてしまった。ええ…またあの路線に戻るの…?ってな感じである。

この映画、冒頭がなんと北朝鮮から始まる。いやはや、冷戦後の脅威は北朝鮮というわけですか、なるほど。いきなりとっ捕まって拷問されているところでオープニングに入る。北朝鮮流の拷問を受けるボンドを見ることになるとは…。そしてオープニング曲を歌うのはなんとマドンナである。やたらとカッコいいオープニングであるが、この映画の内容に合ってるかは微妙である。しかしまあ、豪華だし良いか。

それからは光学技術で透明に見える車に乗って暴れまわったり、宇宙からビームを撃って38度線を焼き尽くしたり、電撃パンチマンがいたりと何でもありである。歴代作品のオマージュと見受けられるシーンが散在していて、それらを探したりするのは楽しい。筆者が好きな『オクトパシー』のワニスーツも見ることができて大満足である。ああ、やっぱりこの作品はそういう路線に回帰したかったのね。ピアース・ブロスナンショーン・コネリーが使ってたジェットパックを見て「懐かしい」とか言ってたけど、やっぱりあの頃と同一人物なようだ。もうお爺ちゃんだろ(笑)。

それでも中盤くらいまでは一応現実的に言える範囲で話が進むのだが、後半からはガラッと変わって、本当にアニメのようなバカげたシーンが続出する。満載のCGも時代的にその質に厳しいものがあり、もはや真面目に観ることは出来ない。しかしここでこの映画を叩くこと、それはもうシリーズ全体の否定であると思う。だって昔の作品もこんな感じだったし。007ってこんなんだったよな~と、ある種の笑顔で見ることは出来る。しかし今の時代に全力でバカ映画をやられると、さすがに面食らってしまう。おいおい…と。

総論として、お祭り映画としては良いが…といった感じだった。『ゴジラ FINAL WARS』とか『エスケープ・フロム・L.A.』とかが楽しめる人にはオススメである。個人的には『ゴーン・ガール』のロザムンド・パイクと『男たちの挽歌』シリーズのケネス・ツァンが出演してたのが嬉しかった。それからピアース・ブロスナンさん、お疲れ様です。

私的評価:★★★★★★★☆☆☆ 7/10

 

ピアース・ブロスナン作品の総論。

冷戦後もシリーズは成立するということを示し新たなスタンダートとなったピアース・ブロスナンの007は平均点が非常に高い。名作とそうでないものの差が激しい他の俳優のものと比較すると、いちばん安心して観れる作品群だと思う。これはもちろん筆者が平成生まれでCG全盛時代に生きてきたからだろう。しかし考えてみてほしい。60年代に始まったシリーズが90年代生まれの若者を虜にすることができるようになった進化は、単純に素晴らしいものではないだろうか。ただ逆説的に、一新されたことによってそれまでの空気がなくなったことも否めない。同じようにバカやってる『ダイ・アナザー・デイ』も、やっぱりあの頃の007にはなっていなかった。というわけで、そのジンクスをダニエル・クレイグがどう破ってくれるのか楽しみにしつつ、この記事を終えようと思う。

読んでくれてありがとう。