オタクノ作る時間

主にノベルゲームについて取り上げてきた元学生のブログ

『NightCry』に向けてクロックタワーシリーズの歴史をおさらい!

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1995年にホラーゲームクロックタワーが発売された。対応機種はスーパーファミコン、今は亡きヒューマン株式会社から発売されたこのゲームは敵から逃げるしかない・主人公を直接操作するのではなく画面内のオブジェクトをカーソルでクリックすることで間接的に指示を出すというシステムが取り入れられている。お世辞にも操作性が良いとは言えないこのシステムは主人公が思った通りに動いてくれないもどかしさやゲーム内の出来事を神様の視点で見るという点が“非力な美少女主人公”にフィットすることで演出として成功し、このゲームを名作にした。殺人鬼の住む館に招かれた美少女が巨大なハサミを持った殺人鬼から逃げながら館からの脱出を目指すというシチュエーションは常に緊張感に満ちていて、プレイ中は手に汗握ることになる。強大な敵に銃器を持って立ち向かうホラーゲームとは異なる逃げ専門のスタイルはこのゲームで確立されたと言っていいと思われる。この1作目はイタリアの映画監督ダリオ・アルジェントの映画の影響が強く、とくに1985年公開の映画フェノミナはオマージュ元ともいえるほどよく似ている。クロックタワーの主人公ジェニファーはフェノミナに主演したジェニファー・コネリーに瓜二つだし、殺人鬼の造形もフェノミナのそれだ。

翌1996年には、プラットフォームをプレステーションに移行することで演出面を大幅に強化した『クロックタワー2』が発売された。余談だが、意外にも読み方は“くろっくたわーせかんど”だったりする。このセカンドは筆者が初めて触れたクロックタワーで思い出も深い。友人とともにキャッキャ言いながら遊んだ思い出がある。

 

2作目はフェノミナの雰囲気だった前作とはまた違うものだった。正体不明の不死身の殺人鬼はシザーマンと名付けられ、『ハロウィン』のブギーマンや『13日の金曜日』のジェイソンを彷彿させる執拗さでプレイヤーを追ってくるし、ゴシック調だった前作の舞台から都会に舞台を移し、日常がシザーマンによって非日常に変えられてしまうスティーブン・キング風のモダンホラーの趣もある。また殺人犯のプロファイリングをしているハンニバル・レクターのような教授、『オーメン』の悪魔の子ダミアンまでもいる。そしてクライマックスの古城ではベラ・ルゴシの『魔人ドラキュラ』のような格式高いゴシックホラーの雰囲気もあり、続編のセカンドはホラー映画の総決算ともいえるものだった(もちろんこれはゲームだが)。

 

片足を引きずりながら巨大なハサミをもって追いかけてくるシザーマンの姿は当時小学生であった筆者やその友人には凄まじいインパクトがあった。今思えば古いホラーゲームを購入し、友人にプレイを強制していた自分は異常だったかもしれない(笑)。とにかく筆者はクロックタワー2にドハマりしたわけだ。

 

96年に発売されたこの作品は売上40万本の大ヒットを記録。バイオハザードと人気を二分することになった。また前作と異なり、海外でも発売されたのだが、海外では本作がナンバリングを外されて単に『Clock Tower』というタイトルでリリースされた。この人気を受けてTBSラジオ他3局で1996年10月から2001年10月まで放送されていた声優の子安武人氷上恭子がパーソナリティーを務めるラジオ番組『子安・氷上のゲムドラナイト』でラジオドラマが放送された(子安さんと氷上さんは出ていない)。

鶴ひろみ大塚明夫が出演していて、演出が千葉繁という豪華なラジオドラマだ。筆者的にも大満足の出来でストーリーを理解するには最適な良いラジオドラマである。

 

ホラーゲームが生まれて間もないころに逃げ専門のシステムを定着させた『クロックタワー』『クロックタワー2のディレクター、河野一二三はホラーゲームの巨匠となったのだ。

 

そして1997年、クロックタワー2の大ヒットを受けて前作『クロックタワー』の移植版が発売された。Windows95向けの『CLOCK TOWER for Windows 95』、プレイステーション向けの『CLOCK TOWER 〜The First Fear〜』の2作である。移植版は演出面やイベントが強化されたり、マウスに対応することで操作性が向上したりした。また続編につながるシークエンスも追加されている。一方で機種依存をしていたbgmの音色は若干の変化を見せ、体力の増減スピードの変更・表情の省略やシザーマンのハサミの音の変更といった賛美両論の改変もある。

筆者は当時中古屋でps版を見つけて歓喜したのを覚えている。2と異なり、1作目のソフトはあまり流通しておらずレアだったからだ。初プレイが移植版だった筆者は上述した変更点は気にならなかった。

 

1998年にはシリーズ三作目となる『クロックタワーゴーストヘッド』(以下GH)が発売される。GHはシリーズの生みの親である河野一二三が関わっておらず、また舞台を現代日本に移したことでそれまでのシリーズとは異なる作風になった。しかし殺人鬼に追われる点やクリック操作、脱出を目的にしているところは共通している。舞台が日本になったことで馴染みやすくなり、またキャラクターを日本の声優が演じているのもうれしい。操作性が若干よくなってもいる。GHの主人公は女子高生なのだが、二重人格でもう一人の人格が彼女の中に眠っている。裏人格は男で、彼は非力ではない。銃を撃って敵に反撃することができるのだ。このあたりがGHの評価の分かれ目であるかもしれない。敵にゾンビがいることもあり、逃げ専門だったスタイルから、バイオハザードのような敵と戦うスタイルに少し寄った感があるからだ。だがしかしシリーズの本質は継承しており、本作独自のストーリーには確かな魅力があるために一定の評価を得ている良作といえるだろう。特に主人公の裏人格は一定数の女性に熱烈なファンがいて、二次創作の類が最も多く見られるのがこのGHである。こちらも2に引き続き海外でも発売されている。2が海外での初クロックタワーだったことからGHは『Clock Tower II: The Struggle Within』という全然別のタイトルになっている。

GHに関してだが、筆者は2ほどではないが好きなゲームである。明らかにゲーム性という点では進化もしているしbgmの量も増えた。しかしもはや時計塔が関係ないというツッコミを当時もしていたと思う。

 

1998年7月28日、GHのドラマCDが発売される。主人公以外の声優が変更されているのが残念だが、こちらも2同様にクオリティの高いボイスドラマである。筆者は好きだ。

翌1999年には1作目『クロックタワー』が再度移植される。対応機種はワンダースワンクロックタワーは初めて携帯機にてプレイすることができるようになった。しかし筆者としては白黒で音も良くない点であまりお勧めできない。

 

2000年1月、シリーズを作った株式会社ヒューマンが倒産する事態が起きる。事実上のシリーズの終焉であった。しかし2002年、カプコンと制作会社の倒産後に権利を引き継いだサンソフトとの共同制作でプレイステーション2向けのタイトルとして『クロックタワー3』が発売される。過去作とのつながりはないものの正式なナンバリングタイトルであり、またイベントムービーの監督として『仁義なき戦い』や『バトル・ロワイアル』で知られる日本映画界の巨匠深作欣二が参加するというビッグタイトルとしてクロックタワーは帰ってきたのだ。深作監督だけでなくキャラクターデザインを『仮面ライダーディケイド』で知られる雨宮慶太、美術を特撮デザイナーの野口竜、脚本を『太陽にほえろ』の杉本升が手掛けるなど各界の名クリエーターが手掛けたこともまた話題になった。

しかしこのゲームはシリーズのファンを満足させることができたとは言い難い。操作性がバイオハザード同様になったことで従来の操作感がなくなったことやファンタジー的な要素が持ち込まれたこと、そして魔法少女もののような戦闘パートなどが不評を買ったからである。

筆者個人の感想としては、光るところもあるがダメなところが多すぎるといったところか。序盤はイギリスの暗い雰囲気や実在の殺人をモデルとした舞台で楽しめたが、後半は特撮映画のような陳腐なバトルものになってしまう。深作監督の演出も素晴らしいシーンもあるが、ホラー映画には無駄となる過剰すぎる力強さがあった。

この記事ではシリーズの歴史をたどることを趣旨としているためむやみな酷評は避けることとするが、この3作目が喜ばしいものではなかったという事実は書いておくことにする。

 

クロックタワー3』からさらに2年たった2005年、プレイステーション2向けに『DEMENTO』がカプコンから発売される。このタイトルはクロックタワーシリーズには入らないのだが、元々『クロックタワー3』の続編として製作される予定だったが新規ユーザー開拓のためにタイトルや設定を変更して開発されたという経緯があるために一応触れておくこととする。こちらは『クロックタワー3』のシステムをさらに洗練させたゲーム性を持ち、個人的にホラーゲームの傑作だと認識している。

 

その後はスーパーファミコン版の『クロックタワー』が2010年にWiiバーチャルコンソール、2013年にWiiUバーチャルコンソールで配信。プレイステーション版が2011年にゲームアーカイブスで配信。『クロックタワー2』と『クロックタワーゴーストヘッド』が2012年にゲームアーカイブスで配信された。

 

そして2014年、「Indie Stream Fes 2014」でクロックタワーシリーズの精神を受け継ぐ後継作として『Project Scissors:NightCry』の製作が発表された。手掛けるのはシリーズの生みの親である河野一二三と『呪怨』でJホラーに革命を起こした清水崇であることがわかり、筆者は大興奮したのを覚えている。

さらに2015年にはクラウドファンディングで資金調達が行われ、有志のファンたちから目標金額の3,000,000円を超えた4,194,000円の支援金が集まった。これによって対応機種をVita/スマートフォン/タブレット版に加えてPC版の日本語版まで拡大し、ついに今年2016年春にPC版が発売される

『NightCry』には河野一二三をはじめとする日本ゲーム業界のトップクリエイターたちが参加しており、シザーマンの後継者となった新たな怪物シザーウォーカーのデザインはサイレントヒルシリーズのクリーチャーデザインを手がけた伊藤暢達が担当していることも要注目だ。ネットにアップされたデモ版の動画を観るに、セカンドのような今時珍しいクリックスタイルのゲームであることがわかる。これはまさに当時のクロックタワーであり、河野一二三のものとしては96年以来20年の時を経て帰って来たのだ

 

というわけでシリーズの歴史とこのたびの復活、筆者の思い出を書いたのでこの記事はここで終わることにする。対応機種が多いしスマホでもプレイできるようになるから、みんなも『NightCry』を筆者と同様に楽しみに待ってほしいと思う。