オタクノ作る時間

主にノベルゲームについて取り上げてきた元学生のブログ

『セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜』隠れた傑作ゲームを紹介。

『セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜』は、2010年に日本一ソフトウェアから発売されたpsp用のテキストアドベンチャーゲーム。筆者はこの度クリアした。最初に言おう、非常に面白かった。傑作だ。自分がマイナーなゲームを漁るのはこういうゲームに出会うことができるからだと再確認できた。つまりこのゲームと出会えて幸せだということ。そんなわけで、いつも通りネタバレ抜きで紹介しよう。まずは あらすじ を読んでくれ。

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夏の休暇を利用して5年ぶりに帰省した主人公 直哉は高校時代の片想いの少女 彩野と再会する。

5年前、直哉の親友であり彩野の恋人であるユウイチが学校の屋上から身を投げた。ユウイチの後を追うように身を投げた彩野は一命を取り留めたものの、その日以降5年間の記憶を持っていない。15分しか記憶を保持できないという後遺症が残ってしまったのだ。

心は依然高校生の彩野だったが、直哉との再会を機に、“高校時代に書いていた物語” という今まで思い出せなかった記憶を語り始める。そしてこの“物語”は5年前の事件の真相を知る鍵となるものだった。

彩野の記憶を留めておくために、直哉は彼女の語る“物語”をまとめ始めるのだが…。

 

あらすじを読んでいただいたので魅力を語っていこう。本作は他のノベルゲームにはない独特なシステムを搭載しているゲームだ。基本的には、主人公がヒロインに“物語”について尋ねる現実パートとヒロインの話す“物語”パートの2つで構成されている。上述したように、このゲームのヒロインは15分しか記憶を保つことができない。だから主人公に物語を話している途中で話を忘れてしまう。話の続きを聞くためには“物語”パートで聞いた彼女の話を、要所要所で あらすじ として要約し、現実パートでどこまで話したか・どんな話だったのか を教えてあげなければならない。この、「15分しか記憶が保たないヒロインから物語を聞き出す」という内容が、ストーリーを読み進めるプレイヤーとシンクロしていて没入度が非常に高い。テキストを読みたいという気持ちがヒロインの話を聞きたいというゲーム内の主人公の気持ちと一致しているのだ。能動的にヒロインに干渉していくシステムがゲーム性としても演出としても成功しているわけである。

こう書くと難しそうなシステムに聞こえるかもしれないが、そんなことはない。要は『逆転裁判』で容疑者に証拠を突きつけるように、物語を要約したカードをヒロインに見せるっていうシンプルなもの。つまり基本的にはカードを選択するだけだ。もちろん、見せるカードを間違えてはいけない。

 

 筆者的には雰囲気の時点で気に入った。雰囲気って曖昧な評価基準だとは思うのだけだ、良かったものは仕方がない。全編通して柔らかいタッチの絵で優しい雰囲気がある。またアニメにありがちな非現実的な髪色とか、変な話し方をするようなキャラもいない。つまりアニメ絵でありながら現実に近いタッチの作風だ。媚びたようなキャラ描写がなく、高校に通ったことがある人なら懐かしさを感じられるキャラクター達だ。新海誠ノイタミナのアニメっぽいと言えばわかりやすいかな?音楽もピアノの旋律が耳に残るヒーリング音楽の様な感じで落ち着いた印象。優しい雰囲気に花を添えている。

そして、“親友の彼女に片想い”というフレーズだけで切ない系だとわかるだろう。そう、切ない系だ(笑)。高校時代の夏というノスタルジーも大きな要素である。 切ない系にノスタルジーまで付加したら、もうそれは半端じゃなく切ないというわけだ。オレンジ色の夕焼けが良い…良いぞ。終盤とか泣いちゃったもん(笑)。そして彼女いないやつは花火のシーンで絶望を味わえる。

 

またヒロインの彩野が話す“物語”は5年前の事件と繋がりがありながらも、どこまでが物語で、どこまでが現実なのかわからない。そこでプレイヤーは考える。どこが現実で、どこが物語なのかと。そしてそれに対する明確な回答は最後まで提示されない。ゲームの進め方、選択肢によってどんどん展開が変わり、その中から事実を予想する作業は楽しく(好きな人には)考察のしがいがある。そしてこの“事実が混ざった物語”から自分なりの解釈をするという行為は劇中の主人公たちと同じである。これもまた主人公とのシンクロだ。そういうゲームでしかできない試みを筆者は評価したい。ある種の脱構造・メタフィクションであると言える。物語から感じたことは事実であるという作り手側の創作というものへの考え方みたいなのが伝わってきたのが良かった。ライターさんは本当に賢い人なんだろうと唸らされた。

 

個人的には傑作だと思うが非常に評価に困る一本。人によって合う合わないがあると思うのでなんともお勧めしづらい。難解なストーリーとも取れるしね。ただ一つ言えることはプレイしてみなければ合うか合わないかわからないということ。ネタバレになっちゃうから言えないけど、終盤の盛り上がりは半端じゃない。そして真相が分かり始めるあたりからがさらに引き込まれるぞ。プレイ中とクリア後では印象がガラッと変わるのも見事だ。だから最後までプレイしないと損すると思う。ラストは賛否わかれそうだが。

プレイヤーが自分なりの真相にたどり着いたとき、必ず記憶に残るゲームとなるはず。セカンドノベルというタイトルも秀逸だとわかる。もう一度言うが個人的には傑作だと思った。名作って埋もれてるものだな~。Ever17とかRemember11が好きな筆者みたいな人にはオススメ。

以上、読んでくれてありがとう。

 

セカンドノベル ~彼女の夏、15分の記憶~

セカンドノベル ~彼女の夏、15分の記憶~