オタクノ作る時間

主にノベルゲームについて取り上げてきた元学生のブログ

007シリーズ初心者が年代順に観て感想を書く!ダニエル・クレイグ編

当ブログでは007初心者の筆者がシリーズの作品を年代順に観て感想を書いている。今までは70年代、80年代と年代別にページを分けて書いていたんだけど、前の記事からは俳優別にページに分けて感想を掲載した。そのほうが分かりやすいと思ったからだ。とういうわけでこのページではダニエル・クレイグの007の感想を取り扱う。ネタバレを含んでいるので注意してほしい。

 

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21.『007 カジノ・ロワイヤル

2006年のシリーズ第21作にして初のリブート作。6代目ボンドを演じるダニエル・クレイグの007デビュー作でもあり、それまでの作品群とは設定の異なる新たなシリーズの出発点として、007となった直後の若きジェームズ・ボンドが描かれる。いわゆる前日譚、エピソードゼロというやつである。ダニエル・クレイグの演じるボンドは金髪で青い目が特徴的な、歴代でも異色のボンドだ。007になりたてという役どころもあるのだろう、まだまだ粗暴で余裕がない。個人的にボンドのイメージ像と異なるダニエル・クレイグだったが、リブートされたボンドとしてみるとなかなか良い。プーチン大統領のような怖い顔立ちも、有り余る筋肉も、若くて粗暴なボンドにピッタリである。これはこれでありというやつだ。

この映画、普通に面白かったのだが、これって007か?と何度も首をかしげさせられた。前日譚ということで今までの“お約束”はほとんど登場しないし、何よりボンドが孤独すぎる。物語の中でまだ出会っていないために、マニーペニーやQといったお馴染みのキャラクターが出てこないのだ。そしてハイテクなガジェットも全然登場しない。う~ん、それならせめて派手なカーチェイスくらいは欲しかったなあ。パルクールとかは別に007で見たいものじゃないし。

この映画はシリーズのリブートとして荒唐無稽な要素を排除し、シリアスな物語にしたかったのだろう。確かにそれは上手くいっていて、全編に渡って格式高い緊張感が保たれている。しかし残念なのが、それと比例して007らしい楽しさが少ないこと。派手なドンパチは少ないしアクションが非常に暴力的である。そして何より不満だったのがタイトルにもなっているカジノのシーンだ。別に何のイカサマもトリックもない普通のポーカーをけっこう長い間見せられる。おしゃれでかっこいいんだけど、もうちょっと緊張感がある駆け引きや心理戦が見たかった。ましてやギャンブルに負けて腹を立て、ナイフを持って暴力的な手段に訴えようとするダサいボンドなんて見たくない。いつでも紳士なのが筆者の中のボンド像なので、ちょっと本質から外れている気がした。ピアース・ブロスナンのシリーズを観た時も、それまでの007とは違うような気がしていたのだが、本作を見るとあっちはちゃんと007だったんだな~と思う。

総論として、まったく新しい007である。冒頭のシークエンスからのオープニングへの入り方やマティーニとの出会い、ラストの締め方なんかは前日譚ならではの魅力があり、新シリーズの始まりとしては成功作と言えるだろう。これからのダニエルボンドに期待させてくれる。しかし一方で、前日譚ゆえの“お馴染み”の喪失や生々しい拷問シーン、あまりにも人間臭すぎるボンドなんかは見たくなかったかな。なんだかんだで自分は過去シリーズへの思い入れが強いのだと自覚した次第である。

私的評価:★★★★★★★★☆☆ 8/10

 

22.『007 慰めの報酬

2008年のシリーズ第22作。シリーズ初の直接的な繋がりを持つ続編であり、前作『カジノロワイヤル』直後の物語が描かれる。前作と本作のセットで一つの物語が完結する構成だ。う~ん…なんというか、作品単体で楽しむことができるのがこのシリーズの良いところだと思っていたので、この前後編構成はあまり嬉しくなかった。確実に前作の話を知っておかないと楽しめないと思う。

冒頭は前作の直後から始まる。いきなりめちゃめちゃカッコいいカーチェイスが始まって大興奮。さらにタイトルシーンが映像も曲も最高にオシャレかつカッコよくて、叫びそうになった。必然的にこれからどんなスペクタクルを見せてくれるのだろうと期待は高まる。しかし本作は最も楽しめるのがこの冒頭のシーンで、それからはどんどん尻すぼみになっていくシリーズ最低の出来であった。

この映画、筆者は嫌いである。この映画のジェームズ・ボンドはいつも怖い顔をしていて、なんでも暴力で解決しようとする。なにかあったらすぐにブチギレて殴り込みすることしか脳がない。 ピンチの時でもいつも冷静で、ぱっと機転を利かせて危機を逃れるのがボンドなのに、この映画ではとりあえず敵を殺すだけである(もはや作中でも上司にたしなめられるほどに)。しかも何かと言うとすぐに死んだ恋人のことを引きずってうじうじするし、酒に酔いつぶれるし、もはやそこに英国紳士の姿はない。話自体もボンドとボンドガールそれぞれの復讐を描いたもので、ず~と暗い顔をしている。別にジェームズ・ボンドの人間性とか弱さとか求めてないんですけど!って感じだ。旧シリーズのボンドみたいに、“死んだ奥さんの話をされるとちょっと悲しい目をする”くらいで良かったのに、べらべらと自分の弱さを語るんじゃあない。確かに『消されたライセンス』もボンドの復讐の話だったが、あっちはまだスマートさがあったぞ。

秘密兵器やボンドカーが登場しない。贅沢な酒や食事パーティがない。かっこつけて煙草や葉巻を楽しまない。女と遊んだりしない。全ての女が一目で惚れる憧れのジェームズ・ボンドは『慰めの報酬』にはいない。その魅力がダニエル・クレイグのルックスに終始する等身大のヒーローを描いた作品に、007という冠をつけないでほしかった。というかそういうことをやりたかったのならどうして前作のラストで“007誕生!”みたいな終わらせ方をしたんだ?

それでもアクションシーンが良ければここまで最低の映画にはならなかったはずなのだが、この映画はそこも上手くいっていない。たしかにアクション自体は迫力満点なのだが、やたらと画面を揺らすわ、カット割りを細かくするわで、何をやっているのか全然わからないし、見づらい。ダニエル・クレイグ渾身のアクションも見えなければ何の意味のないではないか。もったいないな~…。

総論として、007とは何かを思い出させてくれた作品。マンネリを打破するために製作陣が施してくれた仕掛けがことごとく気に入らなかったので、筆者にとってはシリーズ最低の一本になってしまった。う~ん、例えばリアリティを追及するためとはいえ、“ゴジラが放射熱線を吐かない”・ルークがうじうじしててライトセーバーを使わない”・“ルパンが一切ふざけない”なんて改変は許されない思う。本作がボンドにしたことはこれらと同じくらい本質を否定したものだと思ったんだけどなあ…。まあ本作ラストでガンバレルのシーンがあったし、これで遂にダニエルボンドは007となったのだろう(前作のラストでなったと思ったのに!)。次作の『スカイフォール』ではいつものボンドを見れることを期待している。

私的評価:★★★☆☆☆☆☆☆☆ 3/10

 

23.『007 スカイフォール

2012年のシリーズ第23作にしてシリーズ50周年記念作品。傑作の呼び声も高く、歴代最高の興行成績を記録した007でもある。筆者が好きな映画評論家やコラムニストも、こぞって絶賛していたので、非常に楽しみにしていた映画だ。しかし実際に観終わった感想としては、この映画は駄作だと思う。本作を見て確信したのだが、筆者はダニエル・クレイグの007シリーズを楽しめないタイプの人間であるようだ。どう頑張っても昔の作品群とは別物として観ることはできないから、観ていてイライラしてしまった。まあ、すべてが自分の責任ではあるが。

まずストーリーが悪い意味でツッコみどころ満載である。確かに旧シリーズからツッコみどころ満載だったのは認める。しかしあっちはエンタメ全開かつ荒唐無稽なので気にならなかった。楽しいシーンがたくさんあるから笑って許せたのだ。では『スカイフォール』はどうか? こっちは全編に渡りカッコつけてシリアスぶってるくせに、何から何までおかしい。登場人物の全員がアホすぎて見ていて呆れる。何がシリアスだよ、バカ脚本じゃねーか。そのアホさは旧シリーズの夢のある秘密兵器のアホさを遥かに越えている。こうやって批判すると「そういうふうに重箱の隅をつつくようなこと言って何が楽しいの?」とか言われるのは目に見えてるが、こんだけツッコみどころ満載でノイズの多い物語に熱中することは、申し訳ないけど筆者にはできない。それから、アルコール中毒で復帰テストにも合格できないような落ちぶれたボンドなんて見たくないわ!

まあでも冒頭のアクションからオープニングまでの流れは百点満点ではある。主題歌のSkyfallもめちゃくちゃ盛り上がって(この映画で一番)楽しませてくれるし、ここだけでも金払った価値はあった。それからアクションも光をうまく使ってシルエットだけ映したりして、アートっぽくてカッコよかった。壊れた電車に飛び移って、乱れたスーツを正すシーンなんかは最高にクールだよね。ラストのホーム・アローンみたいな篭城戦のつまらなさ以外、アクションを総じて楽しめたことに関しては、前作から格段の進化である。

総論として、がっかりさせられた一本。ちょくちょく挟まれるシリーズのオマージュとかは楽しいんだけど、そういうのは本筋がしっかりしてるから良いのであって、そこだけやられても喜べない。仏作って魂入れずというやつだ(使い方まちがってる?笑)。まあそれでも『ゴールドフィンガー』のボンドカーが現れ、あの音楽が流れるシーンはテンション上がったけどね(全然活躍しないのでまたガッカリしたけど)。それからやっといつもの部屋にM、マニーペニー、そしてQが揃ったわけだが、“そして007は始まる…”エンドを三作連続でやるのは勘弁してほしい。詐欺だろ。

私的評価:★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

 

24.『007 スペクター』

2015年のシリーズ第24作にして、今のところのシリーズ最新作。今後どうなるかはまだ分からないものの、とりあえずダニエル・クレイグによるシリーズの完結作でもあるらしい。ああ、遂にシリーズ全作を観おわってしまった…楽しい時間だったな~。

それではこの『スペクター』がどうだったのかを書こう。うん…そうだな~、イマイチだったかな。いやがおうにも期待が高まるタイトルとプロットのわりには、今一つ盛り上がらなかったという感じだ。前作ラストにて遂に一同に会したボンド・マニーペニー・Q・Mという黄金メンバーと『カジノ・ロワイヤル』『慰めの報酬』『スカイフォール』にて暗躍した闇の組織(しかもタイトルでスペクターだとわかる!)の戦い。こう書くだけで、もう傑作になる要素しかないと思っていたのだ。実際それはある程度うまくいっていて、尋常じゃない緊張感で行われるスペクター幹部の会合のシーンなんかは非常にゾクゾクさせてくれた。あのシーン、スペクターがさながらイルミナティ三百人委員会のような不気味さと強大さを感じさせてくれて最高だった。

しかしそれも練られていない脚本と、前作の迫力がどこに行ったのかわからないショボいアクション(特に敵のアジトを脱出するとこは酷すぎる)によって台無しにされてしまう。もしこの映画が2時間以内の上映時間だったら、その場の興味の持続で楽しかったと思う。だけど2時間30分近くも使って重厚な雰囲気や絵作りをしている割には登場人物がバカばっかりで、なんていうか単純に退屈なんだよね。シリーズ最長の上映時間によって、見事に中途半端な作品になってしまった。『ダークナイト・ライジング』と同じ匂いがする。

そして映画のタイトルから確実に登場すると予想していたブロフェルドが登場し、その正体がボンドの義兄弟だったという、やたらとミニマムスケールの展開(セカイ系かよ)に驚愕する。とってつけたように負傷して、いつものブロフェルドの容姿になるシーンを見て、なんだかな~と思った。もともと間抜けなキャラだったけど、今回は間抜けのベクトルが違うだろ…。父親を巡る愛憎劇というテーマも、前作で描かれた母親を巡る愛憎劇と大した差がなく、新鮮味に欠ける。そして、ヘリを銃撃してKOという呆気なさすぎる決着に震えよう!

総論として、結局最後までダニエル・クレイグのボンドは好きになれなかったという感じだ。まあそれでも彼の作品群の中では本作が一番007っぽいけどね。ボンドカーとか出てくるし。それから『ロシアより愛をこめて』オマージュ(あるいは『私を愛したスパイ』?)の列車の中の取っ組み合いは楽しかったです。冒頭の“死者の日”もテンション上がったね。

私的評価:★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

 

ダニエル・クレイグ作品の総論。

ダニエル・クレイグによる新生007シリーズは良くも悪くも従来の作品群と全然違うので、視聴者が007というタイトルに何を求めているかが問われると思う。筆者はダニエル・クレイグによるジェームズ・ボンド像が受け入れられなかったので、シリーズで最も“これじゃない感”のする4本だった。こういう“モノづくり”においては、いつも「新しいことをしたいクリエーター」と「いつものを見たい老害視聴者」が対立してると思う。そして今回、筆者は老害だったわけだ。それまでの007を否定されたような気がして、何なら怒りを覚えたシーンも少なくない。でもまあ、『カジノ・ロワイヤル』は良い映画だと思う。筆者に言わせると、このシリーズ的なボンドは『カジノ・ロワイヤル』だけで十分なんだよね。ボンドになるまでは『カジノ・ロワイヤル』で描き切ってるし、『スカイフォール』の落ちぶれたボンドなんて誰得だよって感じ。最後に一つだけ言いたいのは、楽しめなくて残念だった!